睡眠90分サイクルは嘘?【本当に大事なのは規則性】
「睡眠は90分サイクルだから、4.5時間や6時間、7.5時間で区切ると目覚めがいい」——そう聞いて、寝る時刻を逆算した経験はありませんか。私もかつて計算していました。それなのに、狙った時間に起きてもだるい朝がある。逆算どおりに寝られない夜もある。
結論から言うと、90分の倍数で睡眠時間を計算しても、思ったほどあてになりません。90分という数字は1957年の実験で得られた「平均値」で、あなた専用の目覚まし設定ではないからです。
この記事では、90分サイクル説を一次研究で検証し、目覚めを本当に左右する要因——「毎日ほぼ同じ時刻に寝起きする規則性=習慣」——と、それを意志に頼らず続ける仕組みを解説します。
「睡眠は90分サイクル」説はどこまで本当?

この説には「正しい部分」と「誤解されている部分」があります。全否定でも全肯定でもなく、切り分けることが大切です。
90分サイクルとは何か
睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返し現れる構造です。ノンレム睡眠のなかにも浅い段階(N1・N2)と深い段階(N3)があり、一晩の1周期はN1→N2→N3と深まってからレム睡眠へ進む、という流れをとります。「ノンレム=深い/レム=浅い」と単純に二分できるわけではありません。この1周期がおよそ90分で、一晩に4〜5回繰り返される——これが「90分サイクル」の中身です。この周期性を初めて記録したのが、脳波を用いた1957年のデメントとクレイトマンの実験でした(出典: Dement & Kleitman 1957)。睡眠科学の古典とされています。
「浅い眠りで起きたい」という発想は間違いではない
深いノンレム睡眠の途中で無理に起こされると、頭がぼんやりして体が重く感じます。これは「睡眠慣性」と呼ばれ、実際に起こります。ですから「できれば浅い眠りのタイミングで起きたい」という発想そのものは、的外れではありません。問題は、そのタイミングを「90分×n=何時間」で計算できると考えてしまう点にあります。
90分は「平均値」であって「あなたの固定値」ではない
ここが最大の誤解です。デメントらの実験の被験者はわずか9人で、90分はその平均にすぎません。実際の周期は人によって、また同じ人でもその晩の疲労や体調によって変わり、おおむね70〜120分の幅があります。「21日で習慣化できる」という俗説が、実際には中央値66日かかるという研究結果の一人歩きだったのと構造はそっくりです(習慣化にかかる日数で検証しています)。平均値が「万人の固定ルール」として広まった典型例と言えます。
90分の倍数で計算しても、あてにならない理由

では、なぜ「6時間で起きればスッキリ」という計算が当たらないのでしょうか。
周期は一晩の中でも一定ではない
睡眠周期は、夜のあいだずっと同じ長さで刻まれるわけではありません。眠り始めの前半は深いノンレム睡眠が多く、明け方に近づくほどレム睡眠が長くなる、というように時間帯で構成が変わります。しかも睡眠不足が続くと、最初の周期が90分より長く伸びることもあります。つまり「90分×5=7.5時間」と足し算しても、5周期目の終わりがそこに来る保証はありません。
具体例:逆算はこうしてズレる
たとえば7時に起きたくて、入眠に15分かかると見込み、「7時 − 90分×5 − 15分=23時15分に就寝」と計算したとします。ところがその晩は疲れていて最初の周期が110分に伸びた——それだけで、狙ったタイミングは20分ずれます。周期の長さは一晩のなかでも変動するので、ズレは重なっていきます。数字はきれいでも、体はその通りに動いてくれません。
とはいえ「6時間で起きるとスッキリする日もある」
そう感じることはあると思います。しかしそれは、たまたまその朝が浅い眠りに重なっただけで、再現性がありません。翌日に同じ「6時間」で起きてもだるい、ということが起こります。あてにならない計算に一喜一憂するより、安定して効く土台に目を向けたほうが得策です。
本当に目覚めを変えるのは「規則性」という習慣

計算(何分眠るか)よりも、規則性(毎日何時に寝起きするか)のほうが、目覚めにも健康にも効きます。そしてこの規則性は、才能ではなく「習慣」でつくれます。
規則性は、睡眠時間よりも健康をよく予測する
2024年に学術誌『Sleep』で発表された約6万人規模の研究では、睡眠の「規則性」——毎日の就寝・起床時刻がどれだけそろっているか——が、睡眠の「長さ」よりも死亡リスクをよく予測すると報告されました(出典: Windred et al. 2024, SLEEP)。この研究は「睡眠時間を増やすより規則性を整えるほうが行動として現実的だ」とも指摘しています。何時間眠れるかは自分で決めきれませんが、何時に寝起きするかは習慣として設計できるからです。
なぜ「同じ時刻」が効くのか
私たちの体には体内時計があり、毎日ほぼ同じ時刻に寝起きすることでリズムが安定します。習慣化の科学でも、決まった時間帯は行動を呼び起こす「きっかけ(cue)」として働き、固定するほど自動化が進むとされています(出典: Wood & Neal 2007, Psychological Review)。毎晩「何時間で区切ろう」と計算するより、「毎日この時刻に寝て起きる」を固定するほうが、体は素直に応えてくれます。
具体例:私は計算をやめて、習慣を続けた
正直に言うと、私も以前は「何時間で起きればいいか」を計算していました。今はやめています。就寝・起床時刻そのものを記録しているわけではありませんが、運動などの習慣を続けた結果として、寝起き・目覚めが以前より良くなったと感じています。朝のルーティンも「起きたら水を飲む→…」と固定化しました。私が開発した習慣トラッカーで6つの習慣を続けた記録は、週98%です(上の画像)。90分の逆算では変わらなかった目覚めが、規則的な生活を続けることで変わっていった——これが身をもって感じたことです。
なお、不眠が続いたり日中に強い眠気があったりする場合は、自己判断せず睡眠の専門医に相談してください。この記事は治療を目的としたものではありません。
一定の就寝・起床リズムを「続ける」5つの仕組み

「規則正しくすればいい」と分かっても、それが難しいのですよね。だからこそ意志ではなく仕組みで支えます。90分を計算するエネルギーを、次の5つに振り向けてみてください。
1. 既存の行動に「寝る合図」を積む
新しい時刻を守ろうとするより、すでに毎日している行動に寝る準備をくっつけるほうが続きます。「歯を磨いたら寝室の照明を落とす」のように、既存の習慣をアンカー(土台)にする方法です。作り方は早寝を習慣化する方法にまとめています。
2. まず「布団に入るだけ」——2分ルール
「23時に完璧に入眠する」は難易度が高すぎます。最初のゴールは「23時に布団に入る」だけで十分です。行動を2分でできるサイズまで小さくすると、入口の抵抗が消えます(2分ルール)。入口さえ習慣になれば、あとは体が続きを覚えます。
3. 「〇時になったら〇〇する」と先に決める(if-then)
「いつ・何をするか」を前もって決めておくと、その場の判断に頼らず動けます。「23時になったらスマホを充電器に置く」のように条件と行動をセットにする計画は、94研究のメタ分析で効果量 d=0.65(中〜大)と報告されています(出典: Gollwitzer & Sheeran 2006)。具体例はif-thenプランニングの例を参考にしてください。
4. 就寝・起床の時刻を記録して見える化する
自分の生活リズムは、記録すると初めて客観的に見えます。自己モニタリングを取り入れた介入は行動変容に効果があると報告されており(成人の座位行動を対象としたメタ分析。記録だけを単独で行った研究ではありません/出典: Self-monitoring meta-analysis, PMC)、記録を続ける効果は睡眠リズムを整えるうえでも支えになります。
5. 1日ズレても、二度は続けない(Never Miss Twice)
規則性を意識すると、ズレた日に「もうダメだ」と投げ出したくなります。でも大丈夫です。習慣化の研究でも、1回の抜けは形成プロセスを実質的に損なわないとされています(出典: Lally et al. 2010)。大事なのは、ズレを責めずに翌日また同じ時刻に戻すこと。この「二度は続けない」という合言葉と、自分を責めない習慣が、規則性を守る心の土台になります。
まとめ
「睡眠は90分サイクル」は正しい部分もありますが、倍数で睡眠時間を計算する使い方は科学的にあてになりません。目覚めを本当に左右するのは、計算ではなく「規則性」という習慣です。
- 90分は9人の実験から得た平均値で、実際の周期は70〜120分と変動する
- 一晩の中でも周期は変わるため、倍数の逆算はズレる
- 睡眠の規則性は、睡眠時間よりも健康をよく予測する(Windred 2024)
- 決まった時刻は行動のきっかけになり、固定するほど自動化が進む
- 規則性は「合図を積む・2分ルール・if-then・記録・二度は続けない」の仕組みで守れる
次の一歩
今夜から、寝る時刻の逆算をやめてみてください。代わりに「起きる時刻を1つ固定する」ところから始めます。起床時刻がそろうと、就寝時刻も自然と整っていきます。
ただし、起床時刻を固定することと睡眠時間を削ることは別物です。就寝が遅くならざるを得ない日が続くなら、起床時刻だけを守って睡眠時間を削るのではなく、必要な睡眠が確保できる時刻の組み合わせを選んでください。日中に強い眠気が出るようなら、それは睡眠時間が足りていないサインです。
ハビッチについて
ここまで読んでくれたあなたが、規則的な生活リズムを本気でつくりたいなら、私が開発した習慣トラッカーアプリ「ハビッチ」を試してみてほしいです。ハビッチは、習慣の達成でバーチャルペットが育つ習慣トラッカーアプリです。
この記事で紹介した「毎日同じ時刻に寝起きする」を、ハビッチは時刻リマインダーとワンタップ記録で支えます。就寝や起床を習慣として登録すれば、記録がカレンダーで見える化され(本記事の「記録して見える化する」の実装)、1日ズレても翌日1タップで戻せます(Never Miss Twice の実装)。
90分の計算に頭を使う代わりに、ペットを育てる感覚で「規則正しいリズム」そのものを続けられる——それが、意志に頼らず規則性を守るいちばん楽な方法だと考えています。
ハビッチはどんなアプリ?アプリの特徴をまとめて紹介ハビッチは、習慣の達成でバーチャルペットが育つ習慣トラッカーアプリです。ワンタップ記録・20種類以上の図鑑・グラフでの振り返りといった特徴から、行動科学にもとづく「続けられる理由」、おすすめな人まで、開発者がまとめて紹介します。